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こんにちは。いよいよこれから梅雨になる時期。暑い日もじめじめする日も多くなってきました。皆様お変わりないでしょうか?
さて、今回は性感染症のお話です。当院にも性感染症に対して心配を持たれる方、治療をご希望される方は多くいらっしゃいます。基本的な治療に関しては標準治療で行い、皆さんよくなられています。しかし性感染症の厄介なところは症状が割と出にくいものがあることと、再感染をするリスクがあるため、その後のリスク管理にも気を向けないといけないことにあります。今回はまだ日本ではなじみのあまりない【性感染症の予防内服】についてのお話となります。これは『ドキシサイクリンPEP』と呼ばれるもので感染症のリスクに晒された後に内服を行うことで感染症発症リスクを抑えるものです。当院では予防を目的として内服の処方をいたします。
以下詳しく記載いたします
ドキシサイクリンPEPとは
ドキシサイクリンPEP(Doxy-PEP)は、性行為後72時間以内に200mgのドキシサイクリンを1回服用することで、クラミジア、梅毒、淋菌などの細菌性STIの感染リスクを低減することを目的とした予防法です。HIV予防のためのPrEP(曝露前予防)とは異なり、Doxy-PEPは曝露後に行う点が特徴です。(PubMed)
有効性に関する最新の臨床試験結果
1. 男性同性愛者(MSM)およびトランスジェンダー女性(TGW)における効果
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米国のDoxyPEP試験では、HIV感染者およびPrEP利用者のMSMとTGWを対象に、ドキシサイクリンPEPの有効性を評価しました。その結果、クラミジアと梅毒の発症リスクが70%以上減少し、淋菌感染も約50%減少しました。 (疾病管理予防センター)
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フランスのANRS DOXYVAC試験では、MSMを対象に、ドキシサイクリンPEPがクラミジアと梅毒の発症リスクをそれぞれ84%および79%減少させ、淋菌感染も51%減少させることが示されました。 (疾病管理予防センター)
2. シスジェンダー女性における効果
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ケニアで行われた試験では、シスジェンダー女性を対象にドキシサイクリンPEPの効果を評価しましたが、STIの発症率に有意な差は認められませんでした。この結果は、服薬遵守率の低さや生物学的要因が影響している可能性があります。
推奨される対象者と使用方法
米国疾病予防管理センター(CDC)は、以下の条件を満たすMSMおよびTGWに対して、ドキシサイクリンPEPの使用を推奨しています:(PubMed)
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過去12か月以内に細菌性STI(クラミジア、淋菌、梅毒)の診断を受けたことがある。
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コンドームなしの性行為を行ったことがある。
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HIV感染者またはHIV PrEPを使用している。(疾病管理予防センター)
推奨される服用方法は、性行為後24〜72時間以内に200mgのドキシサイクリンを1回服用することです。ただし、1日あたり200mgを超えないように注意が必要です。 (疾病管理予防センター)
懸念事項と注意点
1. 抗菌薬耐性のリスク
ドキシサイクリンの頻繁な使用は、腸内細菌叢への影響や、テトラサイクリン系抗菌薬に対する耐性菌の増加を招く可能性があります。特に淋菌においては、地域によってはテトラサイクリン耐性が高く、ドキシサイクリンPEPの効果が限定的であることが報告されています。 (オーストラリア医療ジャーナル)
2. 長期的な安全性と副作用
現在のところ、ドキシサイクリンPEPの長期的な安全性や副作用に関するデータは限られており、継続的な研究とモニタリングが必要とされています。
日本における現状と展望
日本では、ドキシサイクリンPEPはまだ一般的に導入されておらず、医療機関での処方も限定的です。しかし、今後の研究や国際的なガイドラインの動向を踏まえ、導入の可能性が検討されることが期待されています。
まとめ
ドキシサイクリンPEPは、特定の高リスク集団においてクラミジアや梅毒などのSTI予防に有効であることが示されています。しかし、抗菌薬耐性のリスクや長期的な安全性に関する懸念も存在するため、使用にあたっては医師との十分な相談と、定期的な性感染症検査や健康管理が重要です。