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難治性過活動膀胱に対する新たな選択肢 ― ボトックス壁内注入療法とは?
頻尿にとってはつらい冬の季節が終わり、少し楽になってくるこの季節ですが、今なお、毎日辛い症状でお悩みの方が数多くいらっしゃいます。このような季節に左右されない過活動膀胱は治療が難しく難治性といわれるものとなります。トイレが近いことが症状のメインであり、他人から見ると大したことないようにも見られがちではありますが、つらい症状を持つ御本人にとっては大問題です。そもそも他人にも相談しにくい内容なうえ、電車やバスを利用した旅行にもいけない。公共交通機関を利用できないので遠方に住む家族にも会いに行くことがはばかられてしまう・・・これでは人生が変わってしまっているといっても過言ではなく何とかしたいとお思いの方は数多くいらっしゃいます。今回はそんな難治性の症状に対して救世主になりえる治療について説明していこうと思います
そもそも過活動膀胱とは?
過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)は、「急に強い尿意が起こる(尿意切迫感)」ことを主な症状とし、頻尿や夜間頻尿、切迫性尿失禁(トイレまで間に合わず漏れてしまう)を伴うことがあります。日本の成人の約12〜14%がこの症状に悩まされているといわれています。数で言えば1000万人を超えるためかなりの方がお困りであるといえると思います
治療がうまくいかない場合も
OABの治療はまず生活習慣の改善や薬物療法(抗コリン薬やβ3作動薬)から始まりますが、それでも症状が十分に改善しない「難治性過活動膀胱」も少なくありません。こうしたケースに対し、より効果的な治療法の一つとして注目されているのが、「ボツリヌス毒素(ボトックス)膀胱壁内注入療法」です。標準治療である内服をしっかり行ったにもかかわらず効果が十分に表れず、強い尿意切迫感や失禁をきたしてしまう状態の方に適応があります。
ボトックス治療とは?
「ボトックス」と聞くと美容医療を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、実は保険医療現場でも幅広く使われており、筋肉の過剰な動きを抑える効果があります。膀胱に対して使用することで、異常な収縮を抑え、膀胱が安定するようになります。それにより膀胱知覚がコントロールされて結果的に頻尿の辛さから解放されるというものです
日本の診療ガイドラインにおける適応
2023年に改訂された日本排尿機能学会のガイドラインでは、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は、薬物療法で十分な効果が得られないOAB患者に対する選択肢の一つとして明記されています。特に、切迫性尿失禁を伴う難治性OABに対して有効とされています。
治療の実際
治療は、膀胱鏡という内視鏡を使って、膀胱内の複数箇所(20-30か所)にボツリヌス毒素を注射する日帰り手術で行います。手順について詳しくは当院のボトックス療法のページに記載をしていますので参照ください。治療効果は通常3〜6か月程度持続し、必要に応じて繰り返し治療が可能です。副作用としては、排尿困難や尿閉(尿が出にくくなる)などがまれに(5%以下)見られるため、治療前の十分な手技への説明と理解が重要です。またそのような際にもその後のフォローは施術したクリニックが責任をもって対応いたしまのでご安心ください
ボツリヌス壁内注入のエビデンス
2022年に発表された**JAMA(Journal of the American Medical Association)**誌のシステマティックレビューでは、ボツリヌス毒素注入療法が、プラセボに比べて切迫性尿失禁の回数を大幅に減らすことが確認されており、その効果はβ3作動薬と同等あるいはそれ以上とされています。また、長期的にも安全性が高く、QOL(生活の質)改善効果が認められています。
参考文献:
日本排尿機能学会「過活動膀胱診療ガイドライン2023」
JAMA. 2022;327(2):120-129. doi:10.1001/jama.2021.21190
最後に
過活動膀胱は、日常生活の質に大きな影響を与える疾患です。「薬が効かないから仕方ない」とあきらめず、ボトックス療法のような新しい治療法について医師に相談してみましょう。当院でも、この治療に関するご相談を積極的に受け入れております。どのような治療かわからずに受けてみたいけれども躊躇してしまう。そんな方もお気軽にご相談ください。